視覚障害のある子どもたちの世界を知る本『手で見るぼくの世界は』

海岸で7,8個の小さな貝殻を左手に載せている写真。指先に砂が.付いている。

本書『手で見るぼくの世界は』は、視覚支援学校に通う中学1年生の双葉の一年間を描いた物語です。視覚障害のある子どもたちが、学校家庭という守られた環境から一歩外へ踏み出すとき、どれほどの不安勇気を抱えているのかを、等身大の言葉で伝えてくれます。

専門職として日々多くの当事者や家族と関わる中で、私は「白杖を持って外に出る」という行為が、単なる移動手段ではなく、自分の存在を社会に示す行為でもあることを繰り返し見てきました。本書で描かれる佑が白杖を使った歩行訓練に抵抗を感じる気持ちや、双葉が街の人の心無い言葉によって外出そのものを恐れるようになる過程は、現実と深く重なります。それは決して特別な出来事ではなく、私たちのすぐそばで起こり得ることです。

この物語の優れている点は、視覚障害のある人を「困難」や「支援の対象」として一方的に描かないところにあります。匂い足裏の感覚白杖を通して伝わる情報など、「手で見る世界」の豊かさと同時に、それが時に恐怖にもなり得ることまで、丁寧に描かれています。専門書や解説では伝えきれない「感情の揺れ」が、物語を通して自然に伝わってくる点が、本書の大きな魅力です。

また、佑や双葉を支える大人たちの姿も印象的です。教師は常に最善を尽くそうとしますが、「傷つかせないこと」は決して保証できない。その葛藤が描かれることで、支援とは何か守るとはどういうことかを、読者自身が考える余地が生まれます。

一般の読者の方には、本書を通して「見えない世界」を完全に理解しようとする必要はないとお伝えしたいと思います。ただ、白杖を使って歩く人の背後にある緊張や覚悟何気ない一言が相手の世界を狭めてしまう可能性があることに、少し想像力を向けてもらえたら、それだけで社会は確実に変わっていきます。

手で見るぼくの世界は』は、視覚障害や、視覚障害のある子どもたちの生活について知ることができると同時に、人と人が同じ世界を生きるとはどういうことかを静かに問いかける物語です。子どもから大人まで、多くの方に手に取っていただきたい一冊です。

「手で見るぼくの世界は」 くもんの児童文学 樫崎 茜/作 酒井 以/装画・挿絵  くもん出版  2022


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