「自分自身から生じる苦しみ」と「他人から負わせられる苦しみ」
南雲(2002)は障害によってもたらされる心の苦しみには二つの種類があるとしています。
一つは、「自分自身から生じる苦しみ」、もう一つは「他人から負わせられる苦しみ」です。
前者の原因には、生活感覚の戸惑い、孤立化と孤独感、無力感、役割の変化と混乱、目標の喪失、障害の悪化や再発の不安などがあります(大田、1995)。
後者は社会との相互関係に起因するもので、
手助けを受けること、同情されること、憐れみの対象になること、注目を浴びること、好奇心の対象になることなどが
その原因と考えられます(Wright, 1960) 。
心理的問題への対応の重要性
多くの文献が障害を持つ人々の心理的問題への対応の重要性を説いています。
Carrollは著作「失明」の中で、「見えていた自分は死んだ。新たに生まれた見えない人間が再び自分となるためには失明の苦しみを経験しなければいけない」と述べています(Carroll, 1961)。
Wrightは「障害の身体的側面より心理的側面の方が、よりhandicappingであるという認識から、障害を心理学の観点から考えていくことは必須である」と指摘しています。
また、フランク(2002)は治らない病気にかかった人々について
「重い病になるということは、かつてその人の人生を導いてきた『目的地や海図』を失うことを意味する。
彼らは『それまでとは違う考え方をする』ことを学ばなければならない」と書いています。
心理的問題への具体的な対応
具体的な対応として、南雲は以下の三つを挙げています。
1. 障害に慣れること
これは「何が何だかわからない状態」から「わからない部分がわかる」ようになり、
最終的には「分かった状態へ移行」することを意味します。
これは障害後の心理的回復過程であり、エリザベス・キュープラーロスのステージ理論にも通じるものです。
2.元気であること
3. 自信を持つこと
これらはキャロルが「失明」の中で述べた 「障害への適応」「心理的安定」、そして「保有感覚への自信」に対応しています。
視覚障害のある人々の支援に関わる専門職に求められる姿勢
視覚障害のある人々の支援に関わる専門職は障害に伴う心理的問題に関わる必要があります。
自分自身から生じる苦しみと社会との相互関係から生じる苦しみの両方を理解し、適切な支援を提供することが重要です。
心理的問題は障害を負った当初の急性期に注目が集まりますが、特に社会との関わりの中で生じる苦しみは長期間にわたって悩まされるものです。
南雲は、日本においては社会から負わせられる苦しみへの認識が不足していると指摘しており、
障害のある人々の心理的問題の解消を妨げる要因となっていると述べています。
専門職は社会との関係性における困難に対しても、理解と共感をもって接し、
障害のある人々が社会的な孤立や偏見に直面することなく社会に適応できるようサポートすることが求められます。
参考文献
南雲直二著(大田仁史監修)「リハビリテーション心理学入門 人間性の回復をめざして」荘道社. 2002
大田仁史「大田仁史のリハビリエッセンスー芯から支える」荘道社. 1995
Beatrice A. Wright, 「Physical Disability- A Psychological Approach」 Harper & Row, Publishers, New York and Evanston, 1960
Thomas J. Carroll, 「Blindness」 Little, Brown and Company, Boston Tronto, 1961
アーサー・W・フランク「傷ついた物語の語り手」ゆみる出版. 2002