中途失明した人が初めに習得する技能
中途で失明した人がまず習得するのは、「食事を摂る」「排泄する」といった生命維持・健康維持に欠かすことのできない技能です。
中途失明の場合、失明する前に習得していた動作では、箸や歯ブラシなどの日常の道具にもすでに慣れています。
しかし、「食卓テーブルに着く」「洗面所へ移動する」「歯ブラシや歯磨き粉を手に取る」といった動作は、場所や位置がわからないと難しいものです。
それでも、これらの動作は日常の中で反復されるので、多くの人は数日から数週間で習得できるでしょう。
かつての必須技能「電話をかける技能」
次の段階で必要な生活技能の一つとして、「電話のかけ方」があげられます。
現代ではスマートフォンを使用し、AIに指示するだけで電話をかけることができます。
でも、40年前のダイアル式電話の時代には、電話をかけるのは容易なことではありませんでした。
相手の電話番号を記憶するか、点字や通常の文字でメモに記録しておく必要がありました。
そして、番号を頭に思い浮かべながら、電話機のダイアルを回す必要がありました。
ダイアル盤には反時計回りに1から2、3、4・・・9、0の数字が振られた穴が空いています。
相手の電話番号を構成する数字に対応する穴に指を差し込み、ダイアルを回します。
数字の穴を間違えたら初めからやり直しです。
さらにダイアルするのに要する時間も決まっていて、それを過ぎると、同じくやり直しとなります。
当時の視覚障害者は特有の方法で電話をかけていました。
具体的には、右手の小指を1の穴に、薬指を2の穴にというように、4本の指をダイアルの穴に順に差し込む方法でした。
番号の最初が2であれば、薬指でダイアルを回すという方法です。
また、ダイアル盤の中央からダイアル穴の3、6、および9の方向に時計の針のように盛り上がった線状のマーカーが付いている電話もありました。
使用者はマーカーの位置を参照にして、数字の位置を認識しダイアルを回していました。
この仕組みは公衆電話機にも設置されていました。
電話をかけるというごく日常的な行為にも、これらのような困難を克服する必要がありましたが、
公衆電話となると、さらなる課題として、その存在や位置を認識しなければなりませんでした。
「消えた技能」からのヒント
現代では、スマートフォンが主流となり、家族間での電話番号の共有も少なくなりました。
オンラインミーティングツールを使いこなしたり、スマートフォンのカメラを活用したアプリで、世界中のボランティからのサポートを受けることも可能となりました。
わずか数十年で隔世の感があります。
技術の進歩により、かつての視覚障害者が立ち止まることを余儀なくされていた多くの困難が緩和されてきました。
過去の技能や技術が忘れられつつある今、それらの「消えた技能」の背景や価値を知ることで、
今後の技術進化の方向性や社会の進歩をより促進するためのヒントが得られるのではないでしょうか。