私たちは時折、視覚障害のある人々が「まっすぐ歩くのは難しい」と話すのを耳にします。
例えば、街中で
「この方向へまっすぐ10メートル歩けば歩道橋がありますよ」
という説明を受けた視覚障害のある人が、指示された方向へ「まっすぐ」歩いても歩道橋に到達しないことがあります。
「まっすぐ歩く」ことの難しさ
実は「まっすぐ歩く」というのは、目印がない状況下では、誰にとっても難しいものです。
これは、「偏軌(へんき)傾向(veering tendency)」として知られており、一面の砂漠や暗闇の室内での歩行軌跡からも、
まっすぐ歩くことの難しさが明らかです。
人々は、それぞれ微妙に異なる角度で進路が偏ってしまうのです。
歴史を通じて、人々は方向を知るために太陽、星、そして磁石を利用してきました。
現代でも、山登りや航海ではコンパスが必須のナビゲーションツールとなっています。
一方で、街を歩く際には、道の形状(直線や曲線)、ランドマーク、道路標識など視覚的な手がかりが
「まっすぐ歩く」ことを助けています。
しかし、夜間で灯りがなかったり霧が出てこれらの目印が見えなくなると、「まっすぐ歩く」ことが難しくなります。
これは、目の見えない人々が日常的に体験している状況に似ています。
「ガイドライン」の重要性
目の見える人も見えない人も、それぞれの感覚機能に適した目印を見つけて利用することで、
まっすぐに歩く技能を習得することが可能です。
目の見えない人々にとっては、フェンスや道路などの直線的なエレメントが、まっすぐ歩くための目印となり目的地への移動に役立ちます。
この場合のフェンスや道路は「ガイドライン」と呼ばれ、ランドマークやコンパスを使用して得た方位情報と組み合わせて
包括的なナビゲーション戦略を策定するのが一般的です。
しかしこのようなガイドラインが利用できない状況もあります。
例えば、広場を横切る場合や横断歩道を渡る場合がそれにあたります。
目の見える人は通常、木、建物、などのランドマークを目標にして、それを目指してまっすぐ歩きます。
そして途中でコースを適宜調整しながら目的地点へと到達します。
このような状況は、目標を目で確認できない視覚障害のある人にとって、非常に難しい課題となります。
そこで現実の社会では、このような状況を解決するためにエスコートゾーンや音響信号機が設置され、
視覚障害のある人のナビゲーションを支援しています。
エスコートゾーンの設置例
注:エスコートゾーンとは横断歩道の中央部に敷設された視覚障害者誘導用ブロック(通称:点字ブロック)に似た点状の突起によるラインで、これを辿って歩行することにより、視覚に障害のある人が横断歩道から外れることなく道路を渡れるように配慮された設備