
「同行援護」の制度化
2010年、視覚障害者福祉の新しいサービスとして「同行援護」が制度化され、
各自治体で同行援護従業者養成講習会が実施されるようになりました。
「同行援護」は視覚障害者が外出する際に提供される公的サービスであり、
その主な内容は「移動に必要な情報提供」と「移動の援護」です(障害者総合支援法第5条)。
ここで用いられる移動援護の方法として、オリエンテーションとモビリティ訓練で
ロングケインや盲導犬と並んで紹介される Sighted Guide Technique(以下、SGT)が
一つの基本形として採用されてきました。
テキストの内容の変化
講習用教材『同行援護従業者養成研修テキスト』には、
「講習会で教授する移動支援技術は Hill and Ponder (1976) の Sighted Guide Technique に準拠する」
と明記されており、その記述は2024年まで継続していました。
しかし、2025年刊行の新版ではこの文言が削除され、新たに
「外出経験が少なく、誘導に不慣れな視覚障害者を想定した誘導方法」
と位置づけられています。
Sighted Guide Technique(SGT)とは
一方、視覚障害者歩行訓練の専門書におけるSGTの説明は、
Hill & Ponder (1976) の「Basic sighted guide」、
LaGrow ら(2011)およびJacobson(2013)の「basic human guide」、
村上(1986)の「誘導の技術」など、いずれも基本型の解説から始まっています。
これらの文献では、Hillら (1976) が、「視覚障害者が主体的に役割を担うこと(take an active role)」と
「誘導者の役割について十分に理解すること(have sufficient knowledge of the role of the sighted guide)」を
SGT習得の目的として挙げています。
LaGrow ら(2011)は、「未熟な誘導者に対しても適切に対応できること」を指導の目標の一つとして示し、
Jacobson(2013)は「追随者は方向転換や歩速の変化があっても基本的な身体的・空間的な位置関係を維持すること」
と述べています。
さらに、村上(1986)は、SGTを「誘導者と盲人がそれぞれ基本技術を学ぶ必要のある相互的な技術」
と位置づけています。
すなわちSGTは、誘導者と追随者がそれぞれの役割を理解し協働することによって成立する歩行技術であるといえます。
SGTと盲導犬歩行の類似点
また、SGTは盲導犬歩行とも類似しています。
盲導犬と使用者がハーネスを介して身体の動きを伝達し合うように、
SGTでは追随者が誘導者の腕を通じて動きを認識します。
しかし、腕の位置が不安定であると、犬の散歩で用いる「紐(リード)」と同様に動きの情報が伝わりにくくなります。
腕を体側に安定させることは、盲導犬歩行におけるハーネスと同様の役割を果たします。
同行援護従業者養成講習会における誘導方法とSGTとの違い
ここで、同行援護従業者養成講習会における誘導方法とSGTとの違いが明確になります。
同行援護では、利用者(視覚障害者)がSGTに習熟していることを前提とせず、
従事者が安全に誘導する技術を身につけることが重視されています。
新版テキストでは「誘導されることに不慣れな視覚障害者」を想定し、
「腕を組む方法」など、誘導者主導で実施しやすい誘導方法も併記されています。
多様な同行援護に対応するための誘導技術の課題
同行援護の利用者には、SGTを熟知し追随者として主体的に歩く人もいれば、
肩に手を置くなど別の方法を好む人もいます。
そのため、誘導者には 利用者の特性や状況を的確に観察し、適切な方法を選択する能力が求められます。
しかし、講習会における「誘導の基本技術」は約7時間であり、
目隠しをした晴眼者とのロールプレイを中心とするため、
講習修了直後に多様な利用者へ柔軟に対応することは容易ではありません。
このような状況では、利用者の安全を優先するあまり、誘導者が追随者の動きを「制御」しようとする態度が強まり、
声かけや指示が過剰になることがあります。
これは、SGTを用いて主体的に歩行したい利用者にとっては、過保護・介入過多と受け取られ、
主体性を損なう結果につながる可能性があります。
SGTと同行援護の構造的な相違
以上のことから、
SGTが前提とする「相互性」-誘導者と追随者が協働しながら歩行関係を形成するという考え方-と、
同行援護が重視する「サービスとしての安全確保」と「利用者の多様性への対応」との間には、
構造的な相違があるといえます。
同行援護では、利用者に技術習得を求めないため、
誘導者は「どのような追随行動にも対応できること」が期待されますが、
その結果、追随者の主体性や判断の余地が縮小する可能性があります。
課題への対応策
この課題に対応するためには、
利用者がどの程度SGTの型を使えるかを見極め、適切な役割分担を調整する能力を養うこと、
利用者の主体性を保持しつつ安全を担保する声かけ・歩速調整・身体配置の工夫を行うこと、
そして「誘導する」「支える」と同時に、「任せる」「待つ」姿勢を学ぶことが重要であると考えます。
文献
Everett Hill & Purvis Ponder (1976). Orientation and Mobility Techniques: A Guide for the Practitioner. AFB Press, New York, NY.
Steve J. LaGrow & Richard L. Long (2011). Orientation and Mobility: Techniques for Independence. Second Edition. Association for Education and Rehabilitation of the Blind and Visually Impaired.
William Henry Jacobson (2013). The Art and Science of Teaching Orientation and Mobility to Persons with Visual Impairments. Second Edition. AFB Press.
村上琢磨(1986)『盲人の誘導法』 全国ベーチェット協会.
同行援護従業者養成研修テキスト編集委員会(2012)『同行援護従業者養成研修テキスト 第二版』中央法規.
中野泰志(編集)・日本視覚障害者団体連合(監修)(2025)『新版 同行援護従業者養成研修テキスト』中央法規.
