自分の現在位置を知るにはいくつかの方法があります。
1.衛星測位システム
GPS (Global Positioning System) は衛星測位システム (Global Navigation Satellite System, GNSS)の一種で、測位衛星からの電波を受信し、位置を測定します。
これにより地球上の一点が緯度と経度の座標で示されます。
このシステムは、近年のナビゲーションアプリの発展に伴い広く使用されていますが、電波が受信できない屋内では使えないことや大都市部などの電波状況が悪いエリアでは位置表示が大きくずれるのが欠点です。
2.目印(ランドマーク)
既知の目印を使って位置を知る方法です。
視覚障害者の場合は、手や杖で触れることができる目印を選ぶことがあります。
音や匂いで確認できる目印も有効ですが、定位可能な範囲が広く、特定の一点を示すのには不十分な場合があります。
感覚器が感知できる範囲外にある位置は、地図など他の手段を併用する必要があります。
3.推測航法 (Dead Reckoning) または経路統合 (Path Integration)
進行方向、移動距離、方向変更を基に、一点から別の点への移動を計算し位置を推定する方法です。
オプティックフローやアコースティックフローなどの外部情報と、三半規管や固有感覚器から得られる内部情報を組み合わせます。
都心の街路を歩く時には、経路は道路と交差点での方向転換で構成されるので、歩いたブロック数と交差点での方向変換から位置をほぼ確実に推定できます。
一方、進行方向を示す外部の目印がない場合、例えば広い野山のような空間では方位を用いることになります。
たとえば、「北に30歩歩いた後、西に50歩歩いた地点」のようになり、その精度は方向や距離の測定方法に依存します。
注)オプティックフロー (optic flow) とアコースティックフロー (acoustic flow)
前方を見て歩道を歩くとき、家並みや通行人が視界の外側に移動していく様子が分かります。この現象は歩行者が環境内を移動または回転することで環境内の物体の相対的位置が連続的に変化することに起因します。このような動きのパターンを「オプティックフロー」と呼びます。これは、物体が視覚的にどのように移動しているかを捉えることで、自分自身の動きを理解する手段となります。一方で、「アコースティックフロー」はこの視覚現象の聴覚版です。歩行者が移動する際に周囲の音がどのように変化するかを表すもので、歩行者の位置や動きに対する音の変化パターンを指します。
三つの方法を組み合わせて位置を特定
実際には、これらの三つの方法を組み合わせて位置を特定します。
特に視覚障害者の場合、目で目標物や目印を確認するのが困難なため、推測航法に頼ることが多くなります。
例えば、交差点横断時には横断歩道口に立った時に対岸は見えません。
横断方向を決めて対岸へ向かって歩きます。
歩き始めの方向が正しく、その方向が維持されれば対岸に到着します。
この時、横断開始時の横断方向が正しいかそうでないかは、その後の結果を決める重要な要因です。
また、歩道を歩いていて脇の空き地に迷い込んだ場合、最後に確信を持っていた位置から、どの方向にどれだけ歩いたかを基に現在位置を推測します。
歩行(Orientation and Mobility)訓練においては、推測航法に関連する技術として、「方向を取る (direction taking) 」や「伝い歩き(trailing)」があります。
方向を取る技術は環境内にある平面(建物の壁、塀)や直線(縁石、ショアライン(shoreline))を使って、それに対して直角あるいは平行な方向を取るもので、直角方向を取る技術は「スクウェア・オフ(square-off)」と呼ばれ、平行方向を取る技術を「アラインニング(aligning)」と呼ばれます。
例えば、「壁に対して直角に移動する」、または「歩道の縁石に対して平行に移動する」など明確な参照物を基に方向を取ることで後の推測航法が容易になります。
さらに、方向を変換する際は90度とすると、歩いた軌跡は明確な方向を持った線分が90度で結合し、現在位置の推測が容易かつ正確になります。
まとめ
現在位置を特定するためには。衛星測位システム、目印(ランドマーク)、そして推測航法や経路統合などの方法があります。
これらの方法は単独でも有効ですが、一般的には組み合わせて用いることで、より正確な位置情報を得ることができます。
特に視覚障害者の場合は視覚情報に頼るのが難しいため推測航法を使用する割合が高くなります。
方向を取る技術や伝い歩きの技術を活用することで、自身の位置をより正確に特定することが可能になります。