視覚障害者のオリエンテーションとモビリティ
視覚障害者のオリエンテーションとモビリティ(OM)訓練において訓練士は訓練生の行動を注意深く観察します。
理想的には、訓練生が「何を見て」「何を聞いて」「どう判断したか」を理解したいのですが、これを直接知る方法はありません。
人間はしばしば情報処理装置に例えられます。情報処理過程は「入力過程」「媒介過程」「出力過程」の三つから成り立っています。入力過程では目や耳などの感覚器から環境情報を取り入れ、それを脳で知覚し認知します。媒介過程では認知した情報を基に状況を判断し、どのように反応するかを決定します。出力過程では決定した行動を実行します。
訓練士が目にするのは、この出力過程の動作や行動のみです。入力過程では訓練士と訓練生が同じ環境内にいるため環境からの刺激は共有されていますが、個々の感覚器の機能や注意状態が異なるため訓練生が何を認識しているかは推測するしかありません。媒介過程は脳内での情報処理過程であり訓練士にとってはブラックボックスです。訓練生が何を見て、何を聞き、何を触れ、それを何と認識し、どういう判断で行動を決断したのかは本人にしかわかりません。
このため、訓練士は訓練生と対話を行い、お互いが知り得ないことを共有しようと努力します。入力過程に関する質問は「あの音は聞こえたか?」「あれは見えたか?」「あそこの勾配に気づいたか?」など。媒介過程に関する質問は「どうしてそこで止まったか?」「なぜあのタイミングで横断したか?」「ここはどこかわかるか?」などといった形で訓練生の知覚、認知、判断の過程を探ります。同様に訓練生は自分では知り得ない情報について訓練士に質問します。
訓練生は視覚障害のため、自分の企画した動作や行動が意図した通りになったか、その状況での判断が適切だったのか、また自分の歩行軌跡を知ることも困難です。そのため訓練士は訓練生の動作や行動を客観的に観察し理解しやすい方法で伝えることが重要です。
訓練生は自分のパフォーマンスを詳細かつ正確に理解し、それに基づき自身の判断や決定の妥当性を評価し、必要に応じて修正し再度試行します。訓練生が入手した情報に基づいて行動を計画し、その行動の結果を正確に認識することで、必要な動作の改善を自分で実施することが重要です。いわばOM訓練のOODAループです。
OODAループ
Observe(観察することによって現状認識)→Orient(観察結果から状況判断)→Decide(具体的な方策や手段に関する意思決定)→Act(意思決定したことを実行に移す)の4つのプロセスを繰り返す(ループ)ことで目的を達成する
このようなプロセスを通じて訓練生は自己の能力と環境との関係をより深く理解し、独立して行動するための自信とスキルを身につけることができます。また訓練士は訓練生の個々のニーズに応じて指導方法を調整し、より効果的な訓練を提供することができます。この相互作用は視覚障害を持つ人々が日常生活で直面する多様な状況に対応する能力を高めるために重要です。