
自立(independence)とは何か
「社会モデル」が広く語られるようになった現在、あらためて「自立(independence)」とは何かを考えてみたい。
とりわけ、オリエンテーションとモビリティ(O&M)における independent travel と assistance の関係を、「一人で歩く」と「同行援護で歩く」という具体的な移動のかたちを通して見直してみたいと思う。
「よく知っている道」と「初めての道」
私たちは、よく知っている道を歩くとき、ほとんど意識することなく移動している。人に道を尋ねることもなく、気軽に歩き、沿道の様子を楽しむ余裕すらある。いわば身体が覚えている道である。
それに対して、初めての道ではそうはいかない。周囲を見回し、現在地を確かめ、目的地までの手がかりを探しながら進む。時には通行人に道を尋ねることもある。注意を切らさず、情報を集めながら歩くことになる。
この二つの歩き方は、経験としては大きく異なる。しかしどちらも「一人で歩いている」ことに変わりはない。途中で誰かに道を尋ねたとしても、その移動は依然として「一人歩き(solo travel)」である。この当たり前の事実は、視覚障害者の移動について考えるとき、重要な示唆を与えてくれる。
soliciting assistance(援助要請)
O&Mの訓練では、soliciting assistance(援助要請)は基本的なスキルの一つとされている。それは自立した移動にとって不可欠な要素であり、「助けを求めること」は自立に反するどころか、自立を構成する要素と考えられている(Fazzi & Barlow, 2017)。
Jacobson は、この点をさらに明確にし、多くのO&Mの学習者は当初「一人で移動すること」を目標と考えがちであるが、実際に目指すべきは他者との関係の中で移動する「相互依存的な移動者」であり、「自立とは他者の助けを排除することではなく、自らの限界を理解し、必要に応じて適切に援助を求め、それを活用できることである」と述べている (Jacobson, 2013)。人は誰も完全に孤立して生きているわけではない。知らない場所では道を尋ね、地図やナビゲーションアプリに頼る。必要なときに他者の助けを得ることができることこそが、むしろ自立の証だというのである。
視覚障害者の場合、この「助けを得る」という行為は、もう少し多様なかたちを取る。単に情報を尋ねるだけでなく、交差点の横断や駅のホーム上の移動において、他者にガイドしてもらうこともある。そこでは身体的な接触が伴い、言葉のやりとりよりも深い関与が生じる。そのため、依存度 (dependency) が高まっているように見えるかもしれない。
「これは自立なのか、それとも依存なのか」
さらに「同行援護」という支援の制度がある。これは、外出の全過程において従事者とともに移動する形態であり、情報提供と移動支援を一体的に行うものである。ここまで来ると、「これは自立なのか、それとも依存なのか」という問いが自然に浮かんでくる。しかし、この問いそのものを少し疑ってみる必要があるのではないか。
人がある行動を起こすとき、まず意図があり、その実現のための方法を考え、そして行動に移る。「トイレへ行く」という単純な行為でさえ、「行きたい」という意志から始まり、場所を把握し、そこへ移動するという複数の段階を含んでいる。この過程の中で、環境に関する情報をどのように得るかは決定的に重要である。視覚はそのための強力な手段であるが、視覚に制約がある場合、その部分に困難が生じる。しばしば「視覚障害は情報障害である」と言われるのは、この点に由来している。
同行援護とは、この「情報を得る過程」や「環境を読み取る過程」の一部を、他者と共有する仕組みであると言える。つまり、それは単なる「代わりにやってもらう移動」ではなく、「移動のプロセスを他者とともに構成する」一つの方法である。
ここで、Swedish Independent Living Institute が示す「自立生活」の考え方を参照すると、「自立」とはすべてを一人で行うことではなく、障害のない人々と同様に選択し、決定する権利を持つことだとされている (Ratzka, 1993)。また、European Network on Independent Living が提唱するパーソナル・アシスタンス(PA)は、この考え方を制度として具体化したものである。そこでは、支援を受ける本人が、誰にどのような支援を受けるかを決定し、必要に応じて介助者を管理する主体となる。
これに対して、同行援護は制度として「サービス提供」の形をとっており、支援の内容や枠組みはあらかじめ定められている。したがって、現状では利用者の主体性が十分に反映されているとは言い難い側面もある。ただし、家を出てから帰宅するまでの過程において、移動支援に加えて代読、代筆さらには食事や排泄の介助が含まれる場合もあり、その関係性はパーソナル・アシスタンスに近い側面を持つとも言える。
「どの手段を、いつ、どのように使うかを選べるようになること」
しかし、ここで重要なのは、同行援護そのものを「自立の対極」に置くのではなく、移動のための資源の一つとして捉え直すことである。白杖、盲導犬、そして他者による支援。これらは対立するものではなく、状況に応じて選択される移動手段である。
そう考えるならば、O&Mの目標もまた、「一人で歩けるようになること」だけではなく、「どの手段を、いつ、どのように使うかを選べるようになること」へと広がっていくはずである。
初めての交差点で通行人に声をかけること。慣れない場所では同行援護を利用すること。それらを自らの判断で選び取ることができるならば、その人の移動は十分に主体的であると言えるのではないだろうか。
そう考えるとき、「道を辿る」という行為は、単に身体を動かして進むことではなく、環境や他者、制度を含めて、自らの移動を編成していく営みとして立ち現れてくる。そしてそのとき、同行援護において問われるべきは、支援技術の正確さだけではない。むしろ、その支援が、利用者の意思決定をどれだけ保ち、支えているかである。
参考文献
Fazzi, D.L. & Barlow, J.M. (2017). Orientation and Mobility Techniques, A Guide for the Practitioner (2nd ed.). AFB Press.
Jacobson, W.H. (2013). The Art and Science of Teaching Orientation and Mobility to Persons with Visual Impairment (2nd ed.). AFB Press.
Ratzka, A. (1993). The user cooperative model in personal assistance: The example of STIL, the Stockholm Cooperative for Independent Living. Stockholm: Independent Living Institute.
European Network on Independent Living (ENIL). (n.d.).
Personal assistance
