日常生活における触覚の役割
触覚について考えるとき、多くの人が点字を思い浮かべるでしょう。
点字の読み書きは触覚を活用する技能の代表例です。
現代社会において音声による情報提供が一般的となっても点字の重要性は変わりません。
視覚障害者にとって触覚は生活技能や移動技能においても極めて重要です。
触覚は接触によって「物の性状」「肌理(きめ)」「重さ」「温度」「形」「構造」「材質」を知る感覚です。
これらの情報は視覚障害の有無にかかわらず日常生活で重要です。
例えば容器が空かどうかを重さで判別したり紙の表裏を肌理で識別したりすることができます。
触覚は失われた視覚を補う
視覚障害者にとって触覚は聴覚と共に失われた視覚を補います。
特に痛覚を含む触覚は身体の防御に重要です。
例えば、
「調理中に手を切らないようにする」
「火傷を避ける」
「靴の中の小さな石に気づく」
「風呂の湯加減を確認する」
など生活の安全を守る上で不可欠な感覚です。
視覚障害者の移動における触覚
視覚障害者のオリエンテーションとモビリティ(歩行)において聴覚は環境の認識やナビゲーションに役立ちますが、触覚は直近の環境を感知するのに利用されます。
・障害物の検知
・衝突の衝撃軽減
・壁や塀などのガイドラインを伝う
などモビリティ(移動)に触覚が密接に関与しています。
足裏は路面の凹凸や勾配、段差、舗装の種類を感じ取り、杖を使って路面を探り、杖から伝わる振動を手で感じとります。
「杖を握る手の人差し指の感覚が杖の先端まで拡張している」と言われます。
杖の操作法には「叩く」「滑らす」「引きずる」の動きが含まれ、自分が求める情報を得るのに適した方法を選ぶことが重要です。
ロービジョンの人が何かを感知した後、それを手あるいは杖で触れて確かめる行動は、触覚による直接的な接触の安心感に基づいているのでしょう。
盲ろう者のコミュニケーション
盲ろう者のコミュニケーション方法にも触覚は欠かせません。
彼らの中には視覚や聴覚ではなく手のひらで手話や指文字を感じ取って、やりとりする人たちがいます。
この際、手の動きや空間内の位置も重要で、手のひらの皮膚感覚だけでなく、手首や肘などの関節の角度も読取に関与しています。
また、手話を知らない人が盲ろう者とコミュニケーションを取る際には、手のひらや背中に文字を書いて伝える方法もあり、これも触覚の一形態と言えます。
日常生活に不可欠な触覚の働き
糖尿病によって引き起こされる重度の知覚障害を持つ人々は、日常生活において多くの困難に直面します。
例えば、
「キウィフルーツとレモンを触って区別できない」
「トレイを水平に保持するのが難しい」
「スリッパを履いてもすぐに脱げてしまう」
「ガイドと歩いている際に体が左右前後に揺れて不安定になる」
などがあります。
これらの例は、触覚がどれほど日常生活に密接に関わっているかを示しています。
私たちは日頃、触覚の恩恵を明確に意識することなく生活していますが、触覚が損なわれた人々の不自由さを通じて、その重要性に気づかされます。
触覚には「何かが体に触れた」時の受動的な感覚と、壁を伝ってドアを探すような探索行動の時の能動的な感覚があります。
触覚を使った探索行動では「物の触り方」「手の動き」「物の把持方法」など、皮膚感覚、固有受容感覚、関節の受容器などが情報収集に活用されます。