「ケア」と「リハビリテーション」

太陽の日差しが降り注いでいる広大な公園で若者が高齢者が乗っている車椅子を押している写真。

視覚障害に対するリハビリテーションは「ロービジョンケア」?

「ケア」という言葉が、長らく気になっています。

医療福祉介護教育の分野で頻繁にこの言葉が使われている現在、それぞれのコンテクストを詳細に探ることは有意義です。

視覚障害リハビリテーションの分野においても、「ロービジョンケア」というフレーズが1990年頃から普及し始めています。

これは、主に眼科医療関係者が使用している言葉ですが、日本ロービジョン学会の初代会長である田淵氏(2004)は、

視覚障害に対するリハビリテーションを「ロービジョンケア」と名付けることで、社会一般にも理解が広がるだろうと述べています。

しかし、視覚障害リハビリテーションに長く関わってきた筆者から見ると、

この二つの言葉が完全な同義として扱われることは慎重に考えるべきではないかと思われます。

「ケア」と「リハビリテーション」に包含される意味の違い

「ケア」「リハビリテーション」にはそれぞれ異なる意味とニュアンスが込められています。

「ケア」は英語の ‘care’から派生し、高齢者ケアケアプラン心のケアといった形で日本語にも浸透しています。

ここでの「ケア」は、「気にかける」「世話する」「配慮する」を意味し、

「支える」側と「支えられる」側の相互関係が包含されています。

一方、

「リハビリテーション」は1982年の国連定義によれば、

各個人が自身の人生を変革していくための手段を提供するプロセスであり、障害を持つ人の主体性を強調しています。

この主体性はケアの受け手としての立場とは明らかに異なります

眼科医療における視覚障害リハビリテーションの試み

視覚障害リハビリテーションは、長い間、医療分野の外で実施されてきました。

医療サービスが終了し、障害の残存が確定し障害が固定すると、当事者は医療から視覚障害リハビリテーションへ移行します。

1964年に開設された順天堂大学眼科リハビリテーションクリニックは先駆的でした。

眼科医療の中で視覚障害リハビリテーションに取り組んでいましたが、その試みは他の眼科医療機関には広まりませんでした。

眼科医療の中で視覚障害リハビリテーションが始まるのは、

1984年国立障害者リハビリテーションセンター第三機能回復訓練部が最初でしょう。

そして1990年代に入ると杏林大学病院などロービジョン外来を開設する医療機関が増加し始めました。

2000年には「日本ロービジョン学会」が設立され、

2012年にはロービジョンケアに診療報酬ロービジョン検査判断料)が認められるなど、徐々に変化が見られるようになりました。

再構築されつつある各地のネットワーク

視覚障害リハビリテーションの観点から眼科の動向を見ると、眼科医療職の視覚障害リハビリテーション領域への参入が急速に進んでいます。

眼科医たちは「スマートサイト」という、米国で導入された医療と福祉の連携を促進する手法を用い、

これまでの福祉分野で築かれていたネットワークに参入し、医療機関を中心としたネットワークの再構築活動が始まりました。

新しく参入した眼科医療関係者が長年の福祉活動にキャッチアップしようとする活動と言えるかもしれません。

リハビリテーションが重視すべきことを忘れてはならない

長年、視覚障害リハビリテーション分野は福祉と教育を中心に発展してきました。

ロービジョンケアは「疾病の度合い」と「障害の度合い」の組み合わせにより、医療と福祉が交差しあって対応する活動とされています。

医療の部分を担うのは主に眼科医、視能訓練士、看護師です。

いずれも国家資格であり職務内容は明確に規定されています。

一方、視覚障害リハビリテーションの部分を担うのは「歩行訓練士」と呼ばれる視覚障害生活訓練専門職ですが、

身分法での規定はなく明確な認定制度はありません

その確固たる地位と社会的認知度の高さから、医療職はロービジョンケアのリーダーシップを取りつつあります。

視覚障害リハビリテーションが「医療モデル」に寄せられることで、

医療専門職たちの「ケア」の現場で起こりがちなパターナリスティックな対応が強まり、

リハビリテーションが本来重要視すべき「自律」への取り組みや、個人の心理的な課題、社会との関わりなどが

軽視されることのないように、当事者に関わる全ての専門職が肝に銘じる必要があります。

文献:田淵昭雄:ロービジョンケアの考え方、日本医事新報 No.4196, 2004.8

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