触覚を使った技能の代表格は点字でしょう。
点字は目の見える人にとっての「紙と鉛筆」に相当する「点字用紙と点筆」を使って打ちます。
点字の習得には年単位の練習が必要です。
先天性の視覚障害児は目の見える児童が漢字を覚えるように、小学校の時期に点字技能を習得し、高めていきます。
中学生の頃には、一部の生徒は点字での読み書き速度が目の見える人が文字を読む速度にほぼ匹敵するまでになります。
しかし、成人してから失明した人たちが、本を点字で読んだり点字で自分の思いをしたためたりするレベルに到達するのは容易ではありません。
点字の読み書きができる視覚障害者は約10%
熟達者が点字を読む様子を観察していると、人差し指の腹で、水平に行を左から右へと触っていきます。
その動きはとても滑らかです。
初心者は点字のひとマスひとマスの点を探るように触ります。
ときには、マスごとの文字を「あ」「し」「た」などと個別に認識しますが、それらを統合して「明日」という単語として認識するのに問題が生じる場合があります。
人にとって、読み書きが自由にできる手段を持つということは、思考を巡らせ、それを文字に置き換え、推敲したり文章を読解するのに非常に重要です。
2001年の厚生労働省の調査によれば、点字の読み書きができる視覚障害者は約10%にとどまっていました。
その後の調査がないため、現状どうなっているのかは不明です。
IT技術の進歩で、点字以外でも文字の読み書きができるようになりました。
また、以前の点字といえば、点字板と点筆を使って一点一点を手で打つ、または点字タイプライターを使う方法が一般的でした。
その方法の短所の一つが、文字の訂正や挿入、削除などの文書校正作業が厄介なことでした。
今では電子的な点字入力および出力機能を備えたコンピュータを使えば、文書校正、文書の読みが容易に行えるようになりました。
求められる技術の融合
点字は文書以外にも、生活のさまざまな場面で利用されています。
飲料水の缶、階段の手すり、エレベーターのボタン、個人生活の中では調味料や衣服などのラベリングにも使われています。
IT機器の進歩で、スマートフォンの音声読み上げ機能に代表される音声表示の利用が増え、
テキストを読み上げたり、事物をカメラでAIに認識させ、その結果を音声で伝える技術などにより、
以前は触覚を必要とした行為が、音声に置き換えられています。
触覚は視覚障害を補償する感覚として重要です。
IT機器の利用では主に聴覚による補償が優勢になっているようですが、
スマートフォンの画面のタッチ操作には触覚技能も大いに関与しています。
点字の学習と利用は視覚障害者にとって、情報へのアクセスやコミュニケーション、
自己表現の手段として今なお不可欠な要素であり続けています。
一方で、IT技術の進歩は、視覚障害者にとって文字情報の取得やコミュニケーションの方法に革新をもたらし
新たな可能性を拓いています。
伝統的な技術と新しい技術をうまく融合させ、視覚障害者が社会と積極的に関わり、
豊かな表現と情報アクセスを享受する道が拓かれることを願います。