移動と注意

注意喚起の黒い立看板。後ろに倒れかけているピクトグラムが描かれている。

注意機能の役割

人が移動する際には、環境に広く注意を配りながら必要な情報を収集し、それをコントロールする必要があります。

これが不十分だと、重要な情報の見落としや、衝突、転倒などのリスクにつながります。

人の脳の情報処理能力には限界があるため(Miller, 1965)、必要な情報を選別し、その情報に焦点を当てて処理します。

これは、特定の対象に意識を向ける注意機能の役割です。

移動中は「選択的な注意」が必要

移動中は、移動に集中し続けることが重要です。

移動以外のことには注意を向けず、選択的な注意他の興味の抑制)が必要です。

例えば、視覚障害のある人が、建物からの反射音を聞きながら歩道を歩いている例を考えてみましょう。

その時、すぐ脇のバス停に停車するバスの音が聞こえた場合、聴覚的注意がバスの音に切り替わります。

また、歩いていると杖の先が路面の割れ目にひっかかった場合、触覚的注意に切り替わります。

これらの例では、注意が一瞬で他の対象に切り替わっています

このような注意の切り替えが、あるときは意識的能動的)に、あるときは非意識的受動的)に行われます。

注意の分配

進路前方全体を漠然と見ながら、建物や縁石、歩行者や自転車、目印などにも注意を配る必要があります(注意の分配)。

注意を分配しながら交差点に近づいた時には、注意の対象を変え、状況に応じた注意の転換が必要です。

ナビアプリを使用している場合は、それにも注意を分配します。

移動する環境では、時として道路工事のような予期せぬ状況が生じることがあります。

また、交差点横断やプラットホーム上の移動など、間違うことが許されない重要な判断や行動が求められる場面があります。

このような場面では、自動的な行動を止め、意識的なコンロールのもとで情報の確認を行い、エラーを防ぐ必要があります。

ここでいう「確認」とは、情報を単に得るだけでなく、その情報が現状に合っているかを意識的に確かめることを意味します。

オリエンテーションとモビリティ」(OM)訓練では、訓練士はパフォーマンスに注目しますが、注意という認知機能は観察が困難であるため、関心が向けられにくい傾向があります。

制御処理と自動化処理

Shiffrin & Schneider (1977)は、課題遂行における情報処理を制御処理自動化処理に分類しています。

自動化処理限られた処理資源(人の脳の情報処理能力)を節約する過程

制御過程人の脳の情報処理能力を使い、常に注意をコントロールする過程

自動化により、人は複数の課題を同時に処理することが可能です。

例えば、杖操作に熟練した視覚障害がある人が、杖を使いながら自身をナビゲートし目的地点へ移動する場合、杖の操作技術や環境探査技術はすでに習得されており、特別な注意を必要としません。

新しいルートや初めて渡る交差点では、集中的な注意が必要です。

さらに、交差点横断時には、横断開始時点の重要な手がかりである横断方向と平行な道路に停止している車両の発進音に注意を払う必要があります。

これは持続的注意ヴィジランス、vigilance)と呼ばれ、注意の焦点を維持し、長時間にわたって刺激を警戒する能力です。

この状況は環境内の小さな変化に対し、特定の信号を検出し反応するための警戒性として知られています(Mackwarth, 1969)。

また、プラットホーム上を移動する際に転落を防ぐため、プラットホームの端を検知することに注意を集中するのも、同様の持続的注意が求められる状況です。

注意力を高める方法とは

注意力を高める方法として、しっかり確実に環境の情報を知覚するためには、特定の対象や範囲に意識を向けることが大切です。

脇見やよそ見をせずに、ある特定の対象に集中することが重要です。

一方で、注意を一点に集中すると不注意の対象が増え、注意する対象を増やすと一つ一つの対象への注意力は低下します。

そのため、同時に進行する課題の数を減らし、一つの課題が終わったら次というように逐次遂行することも有効です。

OM訓練では、注意の観点からは、どこで自動化処理を使い、どこで制御処理を使うのかを知ることが大切です。

制御処理では、注意の集中と分配、持続的注意など注意のコントロールが必要です。

また、考え事や白日夢、焦り、眠気等の内的な要因のコントロールも重要です。

参考文献
Miller, G.A.. The magical number seven, plus or minus two: Some limits on our capacity for processing information, Psychological Review, 63, 81-97, 1965.

Shiffrin, R.M. & Schneider W. (1977). Controlled and automatic human information processing: perceptual learning, automatic attending and a general theory, Psychological Review, 84(2).

Mackwarth, J.F. 1969. Vigilance and habituation. Penguin books.

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