視覚障害のある人々に対する「相談会」の課題
最近、視覚障害のある人々を対象にした多くの「相談会」が開催されています。
日本語の「相談」には「コンサルティング」と「カウンセリング」の意味が含まれます。
これらの相談会では、文字の読み書き、パソコンの操作、障害年金の申請手続き、歩行訓練の受け方など
相談者からの「質問」に対して視覚障害の専門家が知識や経験を基に
「助言」や「解決策」を提供することが中心です。
これらの情報は重要で適切なタイミングで提供されれば当事者にとっては有益です。
しかし、心の苦しみを抱える当事者への対応としては、これだけでは不十分です。
心の中にある苦しみに対処するには
障害に慣れ、生活に活力をとり戻し、自信を持つプロセスにある当事者には、より共感的なアプローチが求められます。
解決すべき課題が明確で、それに対する解決策を提示すれば問題が解消する場合、
上述のような相談会が有効かもしれません。
しかし、心の中にある苦しみに対処するには「こうしたら」「ああしたら」という助言ではなく
「非指示的」な対応が望ましいと思われます。
通常このような状況でカウンセリングが選ばれますが、カウンセリングは誰もができるわけではありません。
ただ、苦しみの原因が視覚障害であることが明確な場合、
視覚障害リハビリテーションの専門家でも、ある程度の対応が可能です。
ただし、その際の主要な方法は「傾聴」であるべきです。
これにより、万が一対応方法が不適切だったとしても、当事者への影響を最小限に抑えることができます。
傾聴とは
傾聴とは医療や福祉の現場で行われるインテイクとは異なります。
それは当事者が自ら語る話に耳を傾けることです。
当事者が言いたいこと、言わんとしていること、ものの見方や考え方を理解しようとすることが重要です。
当事者のものの見方のままに彼らの世界を見るように聞いていくことが求められます。
これは単なる雑談や先に述べたコンサルティングとは異なるアプローチです。
「物語を傾聴される場」の必要性
日本では、カウンセリングを受ける習慣が一般的でなく当事者も専門職もそれに慣れていません。
さらに傾聴には比較的長い時間を要するため現代のサービス提供時間の枠組みには馴染みにくいです。
専門職が必要な傾聴技能を十分に備えていないこと、当事者の主体性を重視する意識が不足していることなどが、
傾聴活動の普及を妨げています。
しかし、フランクは
「障害を負った当事者が自分を再確立し活力を取り戻すためには自分で自分の物語を語ることが必要」
だと述べています。
そのためには、その物語を聴いてもらえる、すなわち傾聴される場が必要です。
傾聴の役割と重要性
このような背景を考えると、傾聴の役割と重要性は非常に大きいと言えます。
専門職には、当事者の話に耳を傾け、その経験や感情を理解しようとする能力が求められます。
当事者の主体性を尊重し、彼らの語る物語を通じて、彼ら自身が自己認識と自信を取り戻す手助けをすることが重要です。
参考文献
アーサー・W・フランク「傷ついた物語の語り手」ゆみる出版. 2002