触覚によるコミュニケーション

パーキンス盲学校のコテージ

パーキンス盲学校を初めて訪れた時、廊下の奥で私たちをじっと見つめる人の姿が目に留まりました。

私たちが近づいても、その人は一切表情を変えず、静かに立っていました。

彼女に対する興味と不思議に思う気持ちが湧き上がってきた時、案内人に「 ”Hi!” と挨拶してみて」と勧められました。

言われた通りに “Hi!” と声をかけたのですが、彼女の様子には何の変化もありませんでした。

指文字の力

その後、案内人から彼女は耳が聞こえないと説明されました。

そのため、彼女の手の中で、指文字を使って’H’と‘I’を形作るよういわれました。

その指示に従うと、彼女の凍ったような表情が一瞬にして和らぎ、優しい笑顔に変わりました。

この触覚によるコミュニケーションは新鮮な体験で、私の心に深く刻まれる美しい思い出となりました。

これが、私が初めて出会った盲ろうの方でした。

私はその後もパーキンス盲学校を何度も訪れ、時には宿直業務をしながら長期滞在する機会もありました。

パーキンス盲学校には、大規模な寮ではなく、5人から10人ほどで生活するコテージが15棟あり、

それぞれに親代わりのペアレントとその家族が住んでいて、子供たちの日常生活をサポートしていました。

ローラ・ブリッジマンの偉業

多くの人が盲ろう者と聞くと、ヘレン・ケラー（Helen Adams Keller）の名を思い浮かべるでしょう。

しかし、彼女の活躍以前にも、ローラ・ブリッジマン（Laura Bridgman）という盲ろう者がいました。

ローラは言葉を習得した最初の盲ろう者として知られ、チャールズ・ディケンズ（Charles John Huffam Dickens）がアメリカ紀行で彼女のことを記しているほど、当時は世界的に有名な人物でした。

当時のパーキンス盲学校では、手話ではなく指文字で単語や文章を表すよう指導していたようです。

ディケンズはアメリカ紀行の中に、

「この1年間で、彼女はろう者の指文字を使うことに非常に熟練し、知っている単語や文をとても迅速かつ巧みにつづり、彼女の指の速い動きを目で追うことができるのは指文字に慣れている人たちだけです。」

と記述しています。

私は盲ろうの男の子の歩行訓練をしたことがあります。

彼は手で独り言を言いながら歩くのですが、私の指文字の読み取り能力が未熟だったため、彼が何を話しているのかほとんど理解できませんでした。

しかし、ある時彼が、「ある」「ある」と繰り返しながら歩いて行き、使っていた白杖を電柱に当てたのです。

電柱が5メートルほど手前から見えたのです。

視覚はないと聞いていた彼に物を認識する確かな視機能があることを実感した瞬間でした。

その光景を目の当たりにした母親と教師も喜びに満ちた驚きを隠せませんでした。

200年以上の時を経て、同じ障害を持つ子供たちが同じように言葉を習得し成長する様子を見ると心を打たれます。

ローラ・ブリッジマンの存在と、彼女を教育支援した人々の努力が、盲ろうの子供たちへの教育が可能であることを世界に示しました。

その偉業によって、今日まで多くの盲ろう児が教育の恩恵を受ける機会を得ているのです。

参考文献

Elisabeth Gitter, the Imprisoned Guest: Samuel Howe and Laura Bridgman, the Original Deaf-Blind Girl, 2002, Farrar, Straus & Giroux

Charles Dickens, American Notes for General Circulation, 2001, Penguin Classics

参考ウェブサイト

Perkins School for the Blind Incorporated https://www.massmoments.org/moment-details/perkins-school-for-the-blind-incorporated.html