絶対に遅刻できないイベント、例えば重要な試験を受ける時、試験会場の下見をしたことがあるかもしれません。
また教育関係者であれば、学校の遠足のために現地の下見をすることもあるでしょう。
経路学習の今昔
今はインターネットでデジタルマップや街の風景画像を手軽に確認できるため、
現地に直接足を運んで下見する必要はないと感じることがあるかもしれません。
しかしインターネットが普及する前は、道路地図や地形図が経路学習の主な手段でした。
道幅や舗装の状況、車両の交通量など、地図だけでは得られない情報もあり、
現地に足を運び、直接、実際の状況を観察する必要がありました。
近年では、新しい経路を歩く際、スマートフォンのナビゲーションアプリやデジタルマップを頼りに、
指示に従いながらマップ上で現在地を更新する方法が一般的になっています。
また、タクシーを利用するという伝統的な手段も選択肢として考えられます。
一度きりの場所であれば、経路を学習する労力を省く意味で、タクシー利用が効率的と言えるかもしれません。
タクシーの利用は、視覚障害者にも有用です。
同様に、一定の利用基準を満たしている視覚障害者には同行援護サービスが提供されており、多くの方が利用しています。
このサービスはドア・トゥ・ドアで提供され、移動支援(ガイドヘルプ)だけでなく、
出先での文書の読み書きなどのサービスもサポートしています。
下見の方法
視覚障害者が新しい経路を歩く際、事前に取得すべき情報を得る方法として、以下のものが考えられます。
・地図(アナログ/デジタル)
・ナビアプリ
・人に尋ねる
しかしながら、視覚障害の程度や、使用する移動補助具(つえ、盲導犬など)によって必要な情報は異なります。
したがって、自分自身で現地へ出向き、五感を活用して経路を実地調査することがしばしば必要となります。
下見を一人でするのか、友人や家族とするのか、同行援護事業者とするのか、歩行訓練士とするのか、方法はさまざまです。
下見に必要な時間は、経路の距離、方向変換の回数、道路横断回数、移動手段の違いなど、様々な要因に依存します。
下見の主目的は、後日その経路を安全かつ確実に歩くことであり、下見中には経路を反復して歩き、
その要素と順序、自身が取るべき動作、行動などを習得することも大切です。
一度しか歩かない経路
Herchの調査(2020)によれば、一度しか歩かない経路の学習に時間を割くのは、コストパフォーマンスの観点から非効率的だと感じる人が多いとのことです。
筆者が以前行った視覚障害者対象の調査(Shimizu, 2009)でも、自宅周辺の経路は一人で歩くことが多いけれど、
バスや電車を利用して遠出する際は、家族、友人、ガイドヘルパーなどと一緒に行動することが多いという結果でした。
もし、これから繰り返し歩く経路がある場合、従来の下見の方法に加えてデジタルマップをはじめとしたIT技術を上手く取り入れて、より安全かつ確実に歩く方法を見つけたいですね。
文献
Hersh, M. (2020). Route learning by blind and partially sighted people, J. Blindness Innovation and Research, Vo.10, No.2.
Shimizu, M. (2009). A Survey of daily trips of persons who are visually impaired living in communities in Japan, JVIB, Vo.103, No.11.