OM訓練の現状と課題

店が立ち並ぶ街中の横断歩道を白杖を持った男性が歩いている写真。近くに女性や子どもが同じ方向に横断している。車道には車が数台停止して信号が変わるのを待っている。

OM訓練を担う人材

日本では、オリエンテーションとモビリティOrientation and Mobility、以下OM)訓練の提供に関して、制度上、特別な資格は求められておらず、形式的には誰でも実施可能とされています。

しかし実際には、その多くが日本ライトハウスでは視覚障害者生活訓練等指導者国立障害者リハビリテーションセンター学院(以下、国リハ)では視覚障害生活訓練専門職員として養成された「歩行訓練士」によって担われてきました。

歩行訓練士以外にも、作業療法士、理学療法士などがOM訓練を実施する例はありますが、中心的担い手は歩行訓練士です。

OM訓練の実働者数は少数

Richard Hooverによるロングケインテクニックの開発から80年以上が経過し、日本ライトハウスに米国から講師を招いて最初の訓練士養成講習会が開かれてからも半世紀以上が経ちました(木塚、2013)。

この間、日本ライトハウスと国リハの養成プログラム修了者は1107名(2023年4月現在)ですが、調査当時の実働者数は241名にとどまっています。

そのうち実際にOM訓練を実施している者は約184名とされています(日本ライトハウス養成部、2024)。

「歩行訓練士」という名称と業務内容

歩行訓練士」という名称は、その印象とは異なり、歩行(OM)訓練のみに限定された職務ではありません。

実際には、コミュニケーション訓練(例:点字、ICT)や生活技能訓練福祉制度・支援サービスに関する情報提供まで幅広く担っており、しばしば視覚障害福祉における「何でも屋」と評されることもあります(日本盲人会連合、2017)。

このような多領域性のため、「歩行訓練」という語が、文脈によってOM訓練のみを指す場合と、相談支援や生活訓練等を含む包括的な業務全体を指す場合とが混在しています。

その結果、OM訓練固有の課題が議論の中で不明瞭になりやすい状況が生じています。

訓練需要と提供量

近年、「歩行訓練を申し込んだが数か月待ちになる」といった声が頻繁に聞かれ、訓練需要に対して十分な訓練量が提供されていないとして、歩行訓練士の増員の必要性が指摘されています。

しかし、そこで言われる「訓練需要」が、OM訓練単独の需要を指しているのか、生活技能訓練や相談業務を含む全体的な需要を指しているのかが明確でない場合も少なくありません。

実働者数のみで過不足を判断することは難しく、「OM訓練が業務全体の中でどの程度実施されているのか」を示す指標も十分に整備されていません。

OM訓練の実施量の実際

参考として、筆者が2006年に国リハ修了生146名を対象に行った調査では、過去1ヶ月間にOM訓練を実施した者は60名(約41%)であり、平均実施回数は9回でした(清水、2006)。

また、日本ライトハウスの調査によると、2023年の歩行訓練士1人当たりの年間OM訓練実施人数は16.5人でした(日本ライトハウス養成部、2024)。

これらの数値は、OM訓練の実施量が必ずしも大きくない可能性を示唆しています。

自立生活訓練とOM訓練の歴史的展開

日本における自立生活訓練は、1966年日本ライトハウス職業生活訓練センター開設を起点とし、1970〜80年代に自立生活訓練プログラムを提供する施設が相次いで開設され、隆盛期を迎えました。

それ以前の1948年、国立東京光明寮に始まる三療師養成施設の開設期には、視覚障害リハビリテーションは、職業技能の習得を通して自立を達成する「職業リハビリテーション」が中心でした。

職業前訓練(pre-vocational training)

この枠組みでは、高齢者重複障害者就労可能性が低いとみなされ、支援対象から外れやすい傾向がありました。

本来、自立生活訓練プログラムはすべての視覚障害者に適用されるべきものでしたが、実際には三療師養成の前段階、すなわち職業前訓練pre-vocational training)として位置づけられ、就労年齢の入所生を主対象とした学習と生活技能訓練が中心となりました。

OMはその主要な訓練項目の一つでした。

対象者の均質性と訓練体系の限界

当時の入所生は、現在と比べて若年で身体的に活動的な視覚障害者が多く、訓練内容もこうした均質な対象者層に合わせた画一的構成になりやすい状況にありました。

この点は、米国で若年の失明軍人を主対象として発展したOM訓練体系(Hill & Ponder, 1976)との親和性を高める要因となりました。

一方で、対象の均質性は訓練対象範囲の狭さを意味し、その枠組みから外れる視覚障害者の排除にもつながりました。

弱視者に対する訓練は十分に開発されず、全盲者として扱う、いわゆる目隠し訓練が一般的に行われていました。

また、医療的管理体力面での制約を伴う失明、例えば1970年代に多く見られたベーチェット病糖尿病による視覚障害では、画一的なプログラムへの適合が難しく、結果として訓練の主対象から外れやすい状況にありました。

伝統的OM訓練の構造と指導方法

伝統的なOM訓練では、

ガイドと歩く方法」「手・腕を使った防御法」「平行・垂直方向の確保(方向定位)」「杖の操作法

という順序で指導が行われることが一般的でした。

屋内の管理された環境基礎技術を習得した後、住宅地や商業地などのより複雑な屋外環境へ移行し、最終段階で公共交通機関の利用訓練へ進む構成が採用されてきました(LaGrow & Weessies, 1994)。

この構成は、必要となる前に前提技能を論理的順序で導入する「逐次学習」の原則に基づいています(LaGrow & Long, 2011)。

施設入所型訓練における課題

施設入所型訓練では、訓練場所が訓練生共通で設定され、進度が比較しやすいという利点がある一方、屋外訓練は施設周辺に限定されやすく、訓練終了後の生活圏とは異なる環境となるという課題がありました。

そのため、個々の生活環境に応じた調整よりも、汎用性の高い技術習得に重点が置かれ、指導者が具体的に提示し、学習者がそれに従う画一的な指導形態が主流でした。

現在多く見られる発見学習discovery learning)が一般的ではなかった点も、こうした訓練構造と関連しています。

高齢化社会におけるOM訓練体系の再検討

今日でも、白杖歩行特定ルートの習得OM訓練の中心的テーマですが、技能習得に偏重し、OMの本質や方法論を見直す機会が限られているという課題があります。

加えて、視覚障害者の高齢化が進む中で、従来の技術体系が高齢者の身体条件に適合しない場面が増えていることも指摘されています(Dodgson, 2017)。

例えば、ロングケインを正中線上に保持し、手首を支点として左右に振る操作は、筋力や関節可動域の低下した高齢者には困難であり、手首位置の偏りや振り幅の左右不均等が生じやすくなります。

その結果、従来技術が最大の効果を発揮するのは、技術が開発された当時の対象者に近い特性を持つ利用者に限られ、高齢者には十分に対応しきれない場合が生じています。

OM指導の柔軟化と現場の課題

近年の指導書では、伝統的な指導順序を絶対視せず、「ガイド歩行」や「防御法」が白杖操作の前提条件である必要はないこと、白杖使用が有益な学習者に対しては早期導入が望ましいことが示されています(Fazzi & Barlow, 2017)。

また、高齢視覚障害者に対して伝統的技術を身体特性に合わせて調整する手法も提案されています(Page & Bozeman, 2016)。

しかし現場では、訓練機会そのものが減少していることにより、実務経験を蓄積する機会が乏しく、適応策の有効性や安全性を裏付ける実証的根拠も十分に蓄積されていません。

このことは、新人訓練士にとって判断材料が不足し、自信形成が困難になる要因となり、ひいては新たな実践モデル構築の停滞につながる可能性があります。

今後に向けた展望

OM訓練の本来の目的は、利用者が直面する即時的かつ現実的な環境課題に対応できる力を育むことにあります。

移動には衝突、転倒、方向喪失、交通との交錯などのリスクが常に伴うため、これらのリスクを安全に回避できるようにすることが訓練の核心となります。

そのため、OM訓練は、利用者の心理的・身体的能力(残存視力を含む)、移動環境、意欲に応じて高度に個別化される必要があります。

同時に、指導者には視覚障害者の移動特性と環境条件に関する十分な知識と、訓練生の主体性を尊重した指導ができる資質が求められます。

これらを満たす人材をどのように養成し、実働者数の確保だけでなく「OM訓練の提供量」「対象者特性に応じた適応技術」「安全性・有効性の根拠」を体系的に蓄積できる体制をどう構築するかについては、既存の「歩行訓練士」養成プログラムの枠にとらわれない、より広い視点からの議論と制度的整備が求められます。

文献

木塚泰弘(2013). 歩行訓練研修会から視覚障害生活訓練等指導者養成課程までの42年間のあゆみ. 視覚障害リハビリテーション, 第78号.

日本盲人会連合(2017). 視覚障害者のニーズに対応した機能訓練事業所の効果的・効率的な運営の在り方に関する調査研究事業報告書.

日本ライトハウス養成部(2024). 視覚障害者の生活訓練施設の現状. 視覚リハビリテーション, 第99号.

清水美知子(2006). 視覚障害者の歩行を取り囲む諸要因の変化と歩行訓練の今後. 第15回視覚障害リハビリテーション研究発表大会(未公刊).

日本ライトハウス養成部(2024).生活訓練施設の現状2024(未公刊資料/私家版).

Hill, E. & Ponder, P. (1976). Orientation and Mobility Techniques. AFB.

LaGrow, S.J. & Weessies, M.J. (1994). Orientation and Mobility: Techniques for Independence. Dunmore Press.

LaGrow, S.J. & Long, R.G. (2011). Orientation and Mobility: Techniques for Independence (2nd ed.). AER.

Dodgson, A.B. (2017). Rehabilitation workers’ perspectives of O&M training with older visually impaired people(Doctoral thesis). University of Birmingham.

Fazzi, D.L. & Barlow, J.M. (2017). Orientation and Mobility Techniques: A Guide for the Practitioner (2nd ed.). AFB Press.

Page, A. & Bozeman, L. (2016). Modifying O&M technique for older adults. In Griffin-Shirley & Bozeman (Eds.), O&M for independent living. AFB Press.

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