車道、民地への迷い込み
歩道を歩くということは、民地と車道の境界の間を歩くことを意味します。

図1
しかし、時には気づかないうちに歩道を外れ、駐車場などの民地や車道に入ってしまうことがあります(図1)。
車両が常に走行していれば、車の走行音によって位置が把握しやすいため、
車道へ迷い込むことはそれほど頻繁には起こりません。
しかし、いったん入り込めば、走行中の車両と接触する危険があり、大変危険です。
交通量の少ない道路や、交通量の少ない時間帯には、車道に迷い込み、
そのまま対岸まで渡ってしまうようなケースもあります。
一方で、民地側への迷い込みは、車道に比べると危険性は低いものの、発生頻度は高い傾向にあります。
「迷い込み」と「道に迷う」ことの違い
このような「迷い込み」は、一般に言われる「道に迷う」こととは異なります。
「道に迷う」とは、目的地へ向かう途中でルートから外れてしまうことであり、
歩道自体から外れるのではなく、たどっていたルートを見失った状態を指します。
一方、ここでいう「迷い込み」とは、歩道から外れて民地や車道といった、
本来歩くべきではない場所に入り込んでしまうことです。
「迷い込み」で最も重要なのは、できるだけ早く歩道へ復帰することです。
歩道を外れたことに気づく手がかり
歩道を外れてから数歩以内に気づけば、すぐに立ち止まり、直前の位置を思い出したり、
使用している杖を伸ばして歩道に届かせたりすることで、比較的容易に復帰できます。
歩道を外れたことに気づく手がかりには、車両や大きな物(通常、歩道上には存在しない)との接触、
路面の変化(例:アスファルトから砂利へ)、周囲の歩行者の変化(例:歩行者の姿がなくなる、距離が広がる)
などがあります。
リカバリー (recovery)
しかし、気づかずに十数歩も進んでしまうと、自身の軌跡を正確に思い出すことが難しくなり、
杖を伸ばしても歩道に届かない場合があります。
このように、「杖の届く範囲を超えて歩道から外れてしまった時に、安全かつ効率的、
そして体系的な方法で歩道を再発見すること」を、
Orientation and Mobility(歩行)に関する教科書では「リカバリー (recovery)」と呼んでいます。
リカバリーの手順
たとえばFazzi & Barlowの教科書では、次のような手順が示されています。
歩道を外れたと気づいたら、直ちに停止し、むやみに動かず、いま自分がどの方向を向いているかをしっかりと意識する。
そして、それまで沿って歩いていた道路を走る車両の音に耳を傾け、その方向へまっすぐに進んでいく、
という方法が推奨されています。
経路学習中に発生した民地(駐車場)への迷い込みの例

図2
図2は、経路学習中に発生した民地(駐車場)への迷い込みの例です。
この例では歩道沿いにあるレストランの駐車場に誤って進入しました。
駐車場の出入り口は1箇所で、隣地との境界は約1メートルの塀で仕切られ、
歩道との境界は約50センチの植え込みで仕切られていました。
営業時間前だったため、駐車場内に車両はありませんでした。
迷い込みから歩道に復帰するまでに約2分20秒を要しました。
迷い込みから復帰までの軌跡
具体的には、県道沿いを歩いていた学習者が駐車場の出入口で歩道を外れ、そのまま駐車場内に進入。
進入直後に軌跡がわずかに右にずれながらも、歩道とほぼ平行に進み、やがて車止めブロックに接触しました。
その後、隣家との塀に突き当たり、その塀に沿って左右に行き来を繰り返した末に、
歩道との境界にある植え込みに沿って駐車場の出入口へと向かい、歩道へ復帰しました。
迷い込みの背景(学習者)
学習者の話によれば、車止めに接触した際に迷い込みに気づき、歩道に戻ろうとしたものの、
出入口をすぐに見つけられなかったとのことです。
この事例では、県道を走る車両音が常時聞こえていたため、歩道の方向自体は把握できていたと思われます。
ただし、音のする方向に進もうとしても植え込みに遮られ、出口を見つけるのに時間がかかりましたが、
最終的には無事復帰できました。
迷い込みの背景(環境要因)
このような駐車場は、コンビニやガソリンスタンドなどにも多く見られます。
これらの場所では車両の出入りを前提としているため、歩道との境界に段差がなく、
舗装も歩道と同じであることがあり、境界の判別が難しい状況が生じています。
こうした場合、ショアラインなど、路面にある線状の要素を手がかりに、
民地内に入り込むことなく歩道上を歩行する必要があります。
リカバリー方法の習得を
迷い込んだ先は、多くの場合、それまで一度も歩いたことのない場所であり、何があるのかわかりません。
路面の凹凸や段差、駐車車両の有無など、どのような危険が潜んでいるかを予測できないため、
慎重に歩行することが求められます。
もちろん、できることなら歩道から外れることなく歩きたいのですが、
実際の環境には予測困難な状況が多く存在します。
したがって、万が一、歩道から外れてしまった場合でも安全に復帰できるように
あらかじめリカバリーの方法を身につけておくことが重要です。
文献
Fazzi D. L. & Barlow J. M. (2017). Orientation and Mobility Techniques, a guide for the practitioner, second edition, New York, NY: AFB Press.