「盲人ではない」「晴眼者ではない」ロービジョンの人々
ロービジョンの人々は、しばしばイソップ童話のコウモリに例えられます。
コウモリが鳥からも獣からも仲間はずれにされるように、ロービジョンの人々も盲人でも晴眼者でもないという点で似ています。
寮生活の中で全盲の友人をガイドするロービジョンの寮生が、街に出ると自身が晴眼者にガイドされるという話はよく聞かれます。
あえて白杖の使用を避ける
ロービジョンの人々は自分にとって必要な行動をとるだけでも、それが社会一般には盲人の行動とみなされることがあります。
例えば、白杖を使って足元の状況を確認しながら歩く行動です。
そのため、あえて白杖の使用を避けることもあります。
白杖を使って歩いていると、自分を「目が見えない人」と考え、手助けを申し出て来る人々への対処に悩むこともあります。
「目が見える」と言えば厄介な状況が生じるかもしれないし、かといって援助者の期待通りに「目が見えない人」を演じるのにも抵抗があります。
理解されにくいロービジョンの人々
あるロービジョンの人は、同行援護従業者に自分の前を歩いてもらう方法を提案しましたが、
定型の肘をつかむ方法でないとサービスの提供を断られたと話しました。
また、自分を盲人とみなして支援を申し出てくる人に対して、その都度、
「自分はロービジョンであり支援は必要ない」
と説明するのにも疲れ、なされるがままに支援を受け入れる人もいるようです。
いまは、盲でもない晴眼でもないロービジョンという言葉が広まりつつありますが、
その内容が理解され、社会の理解が進むまでにはまだ時間がかかるでしょう。
全く見えない状態より辛い心理的状態をもたらすことも
ロービジョンの人々全般に言えることですが、とくに加齢による眼疾患でロービジョンとなった人々のロービジョン状態は
進行性で、日々の変動もあり、障害の重度化さらには失明への不安は尽きることがありません。
見え方が安定していないため、周囲の人の目は、時に実際より見えているふりをしたり、
反対に実際より見えないふりをしたりしているように映ることがあります。
さらに、ロービジョンの人の見え方には単に視力が低いだけでなく、
像が歪んだり、眩しかったり、奥行きの判断が難しかったり、多様です。
このようなロービジョンの状態は、全く見えない状態と比較して、より辛い心理的状態をもたらすことがあります。
分野ごとに異なるアプローチ
多くのロービジョンの人々は定期的に眼科医療を受けており、日常的に医療専門職と福祉専門職(リハビリテーション関係や介護関係)と接しています。
しかし、例えばパターナリスティックな医療関係者に対して、ロービジョンの人の主体性を尊重する福祉関係者のように、
分野ごとにアプローチが異なり、異なる分野のサービス提供者に対し、
あるときは患者として、あるときはサービス利用者として自身のありようを変えざるを得ない状況があります。
一個の人としてどの分野でも接してもらえることが望ましいのですが…。
身体障害者手帳の基準に満たない軽度のロービジョンの人々
ロービジョンの人々の中には、法定視覚障害に該当する人もいれば、そうでない人もいます。
軽度のロービジョンの人々は、視覚障害が身体障害者手帳の基準に満たず、福祉サービスを利用できないことがあります。
個人のレベルで見えにくいことによる生活上の不自由が明確であっても、ロービジョンエイド(特に読むための視覚補助具)
には高額な費用がかかるため、福祉による支援がないと過大な経済的負担となります。
高齢期にロービジョンになった人々へのサービスは…
学齢期、就労期のロービジョンの人々には、特別支援学校や障害者自立支援施設などが整備されていますが、
高齢になってロービジョンとなった人々へのサービス体系は未整備です。
眼科診療にロービジョン検査判断料が設けられ、医療分野でもロービジョンの人々へのサービスが提供され始めていますが、
サービスの直接的な担い手は医療職である視能訓練士が担うことが多く、全般にリハビリテーション理念への理解が浅い傾向にあります。
視覚障害当事者団体からは疾病モデルへの反発があります。
また、就学、就労の年代へのサービスモデルが、高齢期にロービジョンとなった人々に適しているのかという懸念があります。
「要介護」と一括りにされがちな高齢期のロービジョンの人々
高齢期に加齢による眼疾病でロービジョンとなった人々は、見えにくさを他の身体機能の低下と同様、
加齢による機能低下と捉える傾向があり、若年期にロービジョンとなった人のようにそれを視覚障害と捉えることは少ないと推測されます。
それゆえ障害者として社会から差別的な扱いを受けるという感情も少ないようです。
周囲からはロービジョンによる不自由も含めて一括りに支援が必要な人々と見なされがちで、
ロービジョンによる能力障害や心理的苦悩、不安に対する対応が不十分なことがあります。
その結果、全般的な要介護状態への介護というアプローチになりがちで、リハビリテーションで重視する自律や自尊心の回復が軽視される危険があります。
これには、65歳以上の人々には介護保険制度のサービスの利用を優先するという法制度上の問題も関係していると考えられます。