白杖を持たないロービジョンの人の心情はどのようなものでしょうか。
次のような背景が考えられます。
1. 視機能の残存
以下のように、見えにくいながらも保有視機能を活用すれば安全に移動できると考えているかもしれません。
・歩く速度をゆるめる(ゆっくり歩く)
・単眼鏡など光学的移動補助具を使用する
→環境からの刺激「見えるもの」「聞こえるもの」「触れられるもの」を収集・処理する時間を十分に取る
2. 「盲人」と見られることへの抵抗
自分は全く見えない「盲人」ではないため、「白杖」を持つことで盲人と見られることは避けたいのかもしれません。
これは次に記す「社会の認識」とも似ています。
白杖イコール盲人(見えない人)という社会の認識が自身の認識でもあるため、
視機能を保有しているロービジョンというアイデンティティを持つ自分が、
見えない人のシンボルである(と考えている)白杖を携行することは、
自らのアイデンティティを損なうものであり、受け入れられないのかもしれません。
3. 社会の認識
白杖は盲人が使うものという認識が強く、視機能が残っている者が白杖を使うことを許容しない人たちがいます。
あるロービジョンの人が言っていました。
「自分自身は白杖をロービジョンの人を含めた視覚障害がある人全体のシンボルと捉えているので、
白杖を持つことに躊躇はありません。
でも、全盲以外の人が持たないでほしいと考える一般の人の存在を知っているので、
自分が白杖を持つことによって、そうした人との間でいざこざの種になるようなことは避けたいです。」
社会には「目が見えているのに(全盲でないのに)なぜ白杖を使っているのか」と、
戸惑いとともに怒りをぶつける人もいます。
ロービジョンの人はこのような社会からの反応を気にしながら、白杖を使うか使わないかの判断をすることがあります。
4. 家族の反対
「家族が白杖を使うことに反対している」
「家族の一員に視覚障害があることを隣近所に知られたくないため、移動のために白杖が必要だと感じていても、
少なくとも家の近隣では白杖を使わなで欲しいと要求する。」
このような場合、家から離れた地域であれば白杖の使用に難色を示さない家族も珍しくありません。
最も身近である家族に反対されることは、自分自身の辛い状況を理解してもらえていない寂しさがあるかもしれません。
まとめ
白杖を持たないロービジョンの人の心情には、心の葛藤や社会事情が関係しています。
1.視機能の残存
2.「盲人」と見られることへの抵抗
3. 社会の認識
4. 家族の反対
白杖を持つことの有用性を知っている支援者は、ロービジョンの人の移動の安全を考えて
白杖を持つことを勧めることがあるかもしれません。その際は、白杖を持たないロービジョンの人の心情に留意が必要です。