境界線-ナビゲーションの主要素

夕方の街中の写真。道路の両脇に路側帯があり、車道を一台のタクシーが走り歩道を数名の歩行者が歩いたり自転車に乗っている人がいる。

街歩きでは、歩行者は歩道路側帯を歩きます。

歩道民有地(私有地)や車道境界を形成し、歩行者はこれら二つの境界線の間を歩きます。

境界線は重要な手がかり

境界線は歩道が伸びる方向を示す重要な手がかりであり、

近接空間(局地的空間)の空間参照枠を構成するものとも考えられています。

この概念は、歩行者が移動する時のオリエンテーション及びナビゲーションにおいて重要な役割を果たします。

オリエンテーションとモビリティの分野では、境界線を「ショアライン(shoreline)」と呼び、

それを辿って歩く技術を「ショアライニング(shorelining)」と定義しています。(Hill & Ponder, 1976)。

Kevin Lynchは、環境内の物理的で知覚可能な物体を、

その形態に基づいて以下の5つのエレメントに分類しました (Lynch, 1960)。

  • パス(道路)
  • エッジ(縁)
  • ディストリクト(地域)
  • ノード(接合・集中点)
  • ランドマーク(目印)

ここでいう「パス」は、観察者が日ごろあるいは時々通る可能性のある道筋を指し、

境界線とほぼ同じ概念を表しています。

一般に、歩道の境界線は視覚的には明確に認識できるため、

視覚障害のない人には歩道を辿ることが容易です。

しかし、視覚障害がある人には境界線やその連続性を認識することが困難です。

そのため、触覚など視覚以外の感覚を併用して境界線を認識することが求められます。

境界線や道路は、人々が移動する空間であり、

街という広い空間におけるオリエンテーションを確立するための主要な要素です。

視覚障害のある人にとっては、これに加えて、

近接環境(狭い空間)のオリエンテーションにとっても重要な要素です。

境界線の種類

高低差がある境界線

民有地側では、L字側溝などがあります。

これらは高さがあるため、杖で探った時に認識しやすく、

腰よりも高い場合は視覚的にも認識しやすいです。

車道側の境界は主に縁石で、ガードレール植栽もあります。

高低差がない境界線

民有地側では、アスファルトコンクリート芝生などがあります。

フラット歩道の場合、歩道と車道の舗装が同じであれば、

視覚的にも触覚的にも境界が認識しにくいです。

路側帯の場合は、路面標識で歩道部と車道が区分けされていますが、

触覚的には境界はほとんど認識できません。

地表面が異なる場合は認識しやすいですが、歩道面と民有地面が同じ性状をしていることもあります。

点字ブロックが普及したのは…

点字ブロックの普及は、境界線の認識が困難であることが一因かもしれません。

視覚障害のある人々にとって境界線が認識しにくい、またはたどりにくいため、

新たに明確で確固たるガイドラインが求められ、その結果として点字ブロックがあると考えられます。

英国の視覚障害がある人の団体であるRNIBが「Who put that there!」というキャッチフレーズで、

路上の不法占有物の排除を訴えた運動も、境界線の重要性を示しています。

重要な境界線の連続性

境界線の明確さは視覚的にはコントラストによって、触覚的には地表の性状舗装によって異なります。

境界線を辿る観点から、境界線の連続性も重要な要素です。

境界線を構成する物が、たとえば塀、生垣、建物の壁など、

頻繁に変化すると連続性を認識するのが難しくなります。

さらに、交差する路地や建物の出入り口、駐車場などによって途切れる状況も、

境界線を辿る際の困難さを増加させます。

都市環境におけるアクセシビリティとナビゲーションの質を高める工夫を

歩道上には、合法的な交通標識、電柱、街灯、植栽がある一方で、

実際には、違法な看板商品陳列台自転車等の障害物や不法占有物も存在し、スムースな移動を妨げています。

境界線は単に地理的な要素を越え、視覚障害のある人にとっては

日常生活における安全な移動と自立を支える重要な機能を果たします。

境界線の明確さは、都市環境におけるアクセシビリティとナビゲーションの質を高める上で不可欠です。

これを踏まえ、都市計画公共空間の設計においては、すべての市民が等しく安全かつ快適に移動できるよう、

境界線の視覚的および触覚的識別性を向上させることが求められます。

また、公共空間における障害物の管理と排除にも、さらなる注意と努力が必要です。

参考文献

・ Hill, E. & Ponder, P.(1976). Orientation and mobility techniques; A guide for the practitioner. AFB Press, New York.

・ Lynch, K.(1960). The image of the city. MIT Press, Cambridge, Massachusetts.

・RNIB. (2015). “Who put that there!” The barriers to blind and partially sighted people getting out and about. [Online]. Available at:https://media.rnib.org.uk/documents/Who_put_that_there_Report_February_2015_dvfJhMU.pdf

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